脊髄血管障害

脊髄血管障害について

脊髄血管障害について

脊髄動静脈奇形/硬膜動静脈瘻

脊髄動静脈奇形は、脊髄に生じる血管障害の総称で、硬膜動静脈瘻、傍髄動静脈瘻、髄内動静脈奇形、硬膜外動静脈瘻などの疾患を含みます。これらの病気では脊髄内部あるいはその周辺において、動脈から直接静脈に血液が流入する異常な血管の繋がりを形成するために症状をひきおこします。


この異常な繋がりは“シャント”、あるいは“瘻”と呼ばれ、どこにシャントが存在するかにより診断が異なります。たとえば脊髄を包む膜である硬膜にシャントがある場合、診断は硬膜動静脈瘻となります。

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実際の硬膜動静脈瘻の手術

図に示すのは胸椎の硬膜にシャントがある硬膜動静脈瘻のMRI画像です。患者さんは一年前から両膝以下にしびれを自覚し、半年前から右下肢の脱力を自覚するようになりました。MRIでは脊髄内部が白くなっており(矢印)、脊髄の血流が障害されている様子を示唆しています。また、脊髄のまわりにみえる黒い点々(白矢頭)は、拡張した異常血管の存在を示しています。続いて行われた脊髄血管撮影画像(中央図)ではシャントが硬膜の位置に同定され、硬膜動静脈瘻の診断が確定しました。

 

正確な診断をつけた後に治療方針が決定されます。今回の症例では直達手術を選択しました。全身麻酔手術で、背部を切開し、脊髄を覆う椎弓の一部のみを骨削除して、硬膜にシャントと異常血管を同定しました(A)。直達手術ではインドシアニングリーンという蛍光造影剤を用いて手術を行います。この方法により、異常血管を手術中に描出することができるので、直達手術の安全性と確実性が向上しました(B)。この異常血管を確実に離断し手術は無事に終了しました(C)。術後、患者さんの症状は改善し、術前のしびれの範囲が狭く、の程度も軽くなり、足先の一部にしびれを残すのみになりました。また、運動麻痺は、ほぼ完全に改善しました。

手術では、脊髄腫瘍摘出手術と同様に全例で神経モニタリングを行っています。また、複雑な脊髄血管解剖をより詳細に把握し、診断と治療に役立てるため全例で3次元統合画像を作成しています。

 

脊髄動静脈奇形では、患者さんはくも膜下出血や脊髄出血をきたし、突然の頭痛、背部痛、もしくは四肢麻痺により発症することがあります。あるいは、脊髄が血流不足になってしまい、徐々に増悪する手足の痺れや、四肢運動麻痺、排尿障害によって発症することがあります。つまり発症の形式が一定ではないため、症状から診断をつけることが難しい疾患です。そこで、診断には造影剤をもちいたCTやMRI、あるいは脊髄血管撮影が必要となります。

 

治療法には、直達手術とは異なる血管内治療がありますが、それぞれに利点とリスクが存在します。どちらの治療を選択するかは、個々の患者さんによって異なりますのでよく相談して決定します。一般的に足の付け根に針をさしてカテーテルを誘導する血管内治療では創がなく、体への負担は少ないことが多いです。しかし、一回の治療で根治させることができず複数回の治療を要する傾向があります。一方、直達手術は創部の切開が必要ですが、初回手術で根治できる確率が血管内治療に比べて有意に高いと報告されています。

 

なお、患者さんの術後経過には個人差があります。症状回復に数ヶ月から半年、あるいは一年程度を要する場合もあり、症状が完全には回復しない場合もあります。脊髄動静脈奇形は頻度があまり多くないので、その存在に気がつかれず、その間に症状が進行してしまうことがよく見受けられます。まずはこの疾患を疑ってみることが、診断への第一歩になります。 

 

正確かつ安全な手術計画、さらに患者さんあるいはご家族に病気と治療方法についてよりわかりやすい説明をさせていただくことが可能となります。大変珍しい病気ですが、多くの患者さんが紹介され豊富な治療経験を有しています。また、治療方法やその成績について学会発表や学術論文報告を行っています。