脊髄腫瘍

脊髄腫瘍について

医師になって24年、これまでに経験した手術症例数は日本にて2150件、アメリカにて550件を数えます。直近4年間では616件の脳神経外科・脊髄外科手術を執刀しています。

 

なお、我々は脊髄腫瘍摘出手術の際,神経機能の確実な温存を担保するために術中神経モニタリングを活用しています。

 


昔の手術では、脊髄腫瘍摘出術後に麻酔をさましてみるまで、患者さんの手足が動くのかどうか、確認できませんでした。しかし近年は、手術中に神経モニタリングを活用することにより、手術中であっても両手足の動きや感覚機能の大まかな様子を知ることができます。腫瘍摘出と神経機能温存の両立を目指し、神経モニタリングを用いた手術治療による治療成績向上のため努力を続けています。

I. 硬膜内髄外腫瘍

脊髄腫瘍手術の約40%を占め、特に髄膜腫、神経鞘腫と呼ばれる良性腫瘍の発生頻度が高いです。髄膜腫は神経を包む膜(硬膜)から発生し脊髄を圧迫します。神経鞘腫は1本の脊髄神経根から発生することが多い腫瘍であり、脊髄あるいは脊髄神経を圧迫します。症状は痛みやしびれ、手足の脱力、ぎこちなさなどで、症状が強くなると歩行障害、排尿障害が出現することもあります。

硬膜内髄外腫瘍は、脊髄との境界が明瞭であることが多く、適切な時期に手術治療を行えば、腫瘍をすべて摘出することができ、神経症状の改善や、悪化予防が期待できます。ただし、症状改善の程度の予測は困難で、手術を行ったとしても、すべての症状が完全に改善しないこともあります。

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実際の髄膜腫の手術

患者さんは72歳の女性です。頚部痛、右下肢の脱力と右手足のしびれを主訴に病院を受診しました。MRI検査にて、第一、第二頚椎レベルにある腫瘤が脊髄を圧迫している様子が確認されました。症状が進行性であり、手術を行いました。腫瘍は脊髄を強く圧迫していましたが、幸い、手術後には症状が速やかに改善しました。

 II. 脊髄髄内腫瘍

脊髄髄内腫瘍には脊髄上衣腫、海綿状血管腫、血管芽腫、神経膠腫、など様々な腫瘍が含まれます。いずれも脊髄そのものの内部に切り込み、腫瘍を摘出する必要があります。一般的に脊髄腫瘍手術の目標は腫瘍を全て摘出し、かつ,神経機能を温存することです。

しかし,脊髄は脳に比べサイズが小さく,さらにその中に多くの重要な神経線維が走行しています。そのため、脊髄内部の腫瘍を摘出する操作は常に重篤な神経症状出現のリスクがあり、脊髄髄内腫瘍摘出手術の難易度は非常に高くなります。

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実際の脊髄上衣腫の手術

脊髄上衣腫は脊髄髄内腫瘍の約40%で、30歳代から50歳代に多く、男女差はありません。症状は他の脊髄腫瘍と同様で、頚部痛や背部痛、四肢のしびれ、脱力やぎこちなさ、そして歩行障害と排尿障害です。多くは良性腫瘍であり、手術による摘出で症状改善、増悪予防が期待できます。

 

本症例のMRIでは、脊髄内部に腫瘍を認め、腫瘍の形状は不均一で、内部に一部空洞を伴っていました。手術では背中を縦に切開し、脊髄を覆う椎弓をはずし、硬膜を切開すると、脊髄表面が確認できますが(①)、内部にある腫瘍はこの時点では観察されません。脊髄の背側正中を慎重に切開し、脊髄を傷つけないようにして脊髄髄内に入ります(②)。脊髄内部の腫瘍に到達し、脊髄を傷つけないように丁寧に剥離して腫瘍を摘出します(③)。この症例では無事に腫瘍を摘出することができ、術後症状も速やかに改善し(④)、下肢のしびれが残りましたが、術後1ヶ月後に職場復帰されています。